大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成7年(オ)191号 判決 1996年10月14日

東京都渋谷区恵比寿二丁目三六番一三号

上告人

株式会社パワーステーション

右代表者代表取締役

小林茂

右訴訟代理人弁護士

藤本博光

右輔佐人弁理士

奥山尚男

東京都新宿区新宿六丁目二八番一号

被上告人

日清フーディアム株式会社

右代表者代表取締役

新井雄一郎

右当事者間の東京高等裁判所平成五年(ネ)第二六三三号商標権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成六年一〇月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤本博光、上告輔佐人奥山尚男の上告理由について

本件レストラン内で販売される料理が商標法三七条にいう商品に当たらないことなど所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成七年(オ)第一九一号 上告人 株式会社パワーステーション)

上告代理人藤本博光、上告輔佐人奥山尚男の上告理由

一、 原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

(一)1 本件食料品は商標法二条三項にいう「商品」に該当するにも拘らず、これを該当しないと解釈判断した原判決は判例違反でもあり法令の適用を誤っている。

2 原判決は、まづ本件食料品が持ち帰りができるかどうかを商品性判断の要素の一つと考えていると思われ、次のようにのべている。

「控訴人は、本件レストランにおいては、本件食料品を持ち帰りすることは特に禁じられていない旨主張し、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第三二号証によれば、控訴人のサポートセンターのアシスタントマネージャー岩木耕一が、平成六年二月一五日及び一七日に本件レストランに調査に赴いた際、本件食料品の一部を手堤げ紙袋にいれて持ち帰った事実があることが認められる。

しかし、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証によれば、本件レストランでは、飲食物の持ち帰り用に手堤げ紙袋を用意している事実はなく、前記岩木の強い要望により、たまたま当日、本件レストランの従業員が私用のために持っていたものを渡したにすぎないことが認められるので、前記岩木が持ち帰った事実があることをもって、本件食料品の持ち帰りが、本件レストランにおいて一般に行われているものと認めることはできない。」

つまり原判決は、本件食料品の持ち帰りが、本件レストランにおいて一般的に行われなければ一般市場で流通に供されていないと認定しているようであるが、本件の場合現に三回も本件食料品を持ち帰っているという事実があるのであって、このように充分持ち帰ることのできる可能性があり、現に持ち帰った事実がある場合は、この品物は一般市場で流通に供されているものと判断されるべきものと思料する。即ち原判決はこの点の判断の誤がある。

3 更に原判決は、本件食料品の商品性の判断についてつぎのようにのべている。

「控訴人は、本件レストランは不特定多数の人の入場が許され、不特定多数の人による本件食料品の購入が行われているから、本件食料品が一般市場で流通に供されていることとなり、本件食料品は商標法二条三項にいう「商品」に該当する旨主張する。

しかし、前認定の事実によれば、本件レストランは、生演奏されるロックのコンサートを鑑賞するために来場する者が同時に飲食することができるようにした場所であり、被控訴人は、本件レストランにおいて、音楽演奏の興行というサービスと料理の提供というサービスを同時に行っていることが明らかである。そして、本件食料品は、SDSフロアにおいて提供されるコース料理と同じく、来場者の飲食のために本件レストランが提供する物であり、B1フロア、B2フロアでコンサートを鑑賞しつつ飲食を楽しむことができるように、透明なプラスチック製の容器又は紙箱に入れられているものと認められ、このことからすると、これらのパッケージは飲食サービスにおける食器類と同じと評価すべきであり、これに付されている被控訴人標章は、音楽演奏の興行とともに飲食サービスを提供する本件レストランのサービスを表示するものとしてのみ来場者に認識されるものと認められる。本件全証拠によってもこれを覆すに足りる資料は見当たらない。すなわち、被控訴人標章を本件食料品の入ったパッケージに付する行為は、被控訴人が提供するサービス(役務)を表示するものとして行われているものであり、商標法上の商品を表示するものとして行われているものではないというべきである。

従って、本件食料品が商標法上の商品に当たることを前提に、被控訴人標章が商品に付されているとする控訴人の主張は採用できない。」

4 この点に関連して判例として次のものがある。

上告審 昭和六一年(オ)第一〇八五号

昭和六二年六月一八日言渡 上告棄却

この判決は「食堂で提供され該店舗で消費される複合体(中華そば)は商標法上の商品ではなく、かつ指定商品の類似商品でもない」という上告理由に対して上告を棄却しているものである。つまりこれは控訴審(広島高裁岡山支部)の次のような判断を認めた判例である。

「被控訴人らは、自己らが直営店及びチェーン店で顧客に販売する中華そばは、本件登録商標の指定商品たる中華そばめん(単体)に他の材料を加えて調理した複合商品であって、これを当該店舗で直ちに食用に供する状態で提供しているものであり、他への流通を目的としていないものであるから、右標章を、商標法が対象としている指定商品について使用しているものとはいえず、他の営業主体と識別するための営業標識として用いているにすぎないものであると主張する。

たしかに……被控訴人らは顧客に対し単体としての中華そばめんそのものの販売をしたことはなく、自ら或はチェーン店を通じて、これに一定の具およびスープを加えて調理し、店舗において即時食用に供する状態で顧客に提供しているもので、これが当該店舗外に流通することはないものと認められる。

しかしながら店舗内で提供される複合体としての飲食物であっても、本件指定商品たる中華そばめんは中華そばの最も主要な材料であって、右飲食物が独自の味覚を持つなどして文字図形をもって他に表示され、広く一般の顧客を招聘するにおいては、右文字等が該飲食物の特色を表象するものとして他に意識されるとともに、その出所(材料)の特色を示すものとして他に理解される機能を有するに至るものとみられるのであって、本件(イ)号ないし(ニ)号標章は、被控訴人の店舗

(直営店及びチェーン店)を他と識別する機能を有するものであるとともに、延いては同店舗で提供される飲食物たる中華そばをその主要材料である中華そばめんとともに、その特色を他に表示するものとみられ、右標章の前認定のごとき使用は、本件指定商品たる「中華そばめん」について使用するものと解することができる。よって被控訴人らの右主張は理由がない。」

5 これを本件と比較してみると、判例の場合は「中華そばめん」を指定商品とする商標であって、この「めん」に一定の具及びスープを加えて調理したものを店舗で提供していたものであるのに対し、本件の場合はホットドッグ、ハンバーガ、サンドイッチ等を指定商品とする商標を、被上告人がその商品のまゝを容器に入れてレストラン(店舗)内で提供している。従って、本件の場合が商品と商標の指定商品の関係が判例の場合より直接的であるので、この相異は別に考慮しなくてもよいこととなろう。

つぎに判例の場合は、飲食の目的で何人でも出入り自由な店舗内での提供であるのに対し、本件の場合はチケットを購入した者のみが入場できるレストランであるという相異点があるが、このチケットは何人でも購入できるのであるから、このことによって特定の者のみが入場できるのではない。従って場所についても判例の場合と同じように考えてよいこととなる。

しかも本件の場合は容器に本件商標を明示してある。

6 以上を総合すると、本件の場合も前記判例のようにその商品性を認めなければならないのにも拘らず、これを商品でないと判定したのは右判例に違背している。

(二)1 原判決は、本件商標の使用が不正競争の目的によるものであるので、商標法三七条一号の指定商品に類似する役務についての登録商標に類似する商標の使用に該当するにも拘らず、本件商標の被上告人による使用は不正競争の目的によるものではないと判断し、右条項を適用しなかった法令適用の誤がある。

2 原判決も認定しているように、上告人は被上告人に対し、商標法の平成三年法律六五号による改正以前である昭和六三年四月二六日及び平成二年一月二三日と二回に亘り、被上告人の本件標章の使用は上告人の商標権の侵害に当るとの警告書を発している。

従って、この時点から被上告人は本件標章の使用については悪意であり、不正競争の目的が生じた筈である。

そうであるとすれば、平成三年法律第六五号付則第三条にいう

「この法律の施行の日から六ケ月を経過する前から日本国内において不正競争の目的でなく………」

とは、使用の当初から法律施行後六ケ月を経過するまで引き続き不正競争の目的がなかったと解すべきであって、本件のように少くともその途中でしかも法律施行前に悪意や不正競争の目的を有するようになった場合は付則第三条の適用はないというべきである。

従って、本件の場合商標法第三七条一号に該当するにも拘らず、これを該当しないとした原判決は誤りである。

(三) 不正競争防止法に基づく請求に関しては、原判決は原判決摘示の事実があれば、上告人の営業表示は、わが国で広く認識されたと認めて不正競争防止法を適用すべきであるにも拘らず、これを認めず同法を適用しなかった誤がある。

以上

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